2012年9月30日日曜日

万色の渦


リベレツのナイブニー劇場での『金のさかな』上演、無事に終了しました。
60席の小さな劇場はオストラヴァとはまた違った客層の、かなり小さな子どもたち。
途中、集中が切れてしまって心配な瞬間も正直ありましたが、無事に、幕を閉じました。

今回のプロジェクトにおいて、プロデューサーとして各劇場との調整や交渉にあたってくれたペトルが、今日の公演だけ照明を担当することになり(人生初)。
気を揉んでいたのですが・・・フタを開けてみると持ち前の明るさとタフさで、
半ばインプロ。人生初とは思えないフェーダーさばき。
芝居が始まってすぐに、「ああ、こりゃ大丈夫だな。」と、なぜか安心してしまいました。度胸が半端ない人なので。

このプロジェクトはもちろん良質な作品を創ることが
一番の目的です。
ただ、プロダクションが小さいが為に、自分の本来の役割以外の部分にも大きな責任を
負うことが求められます。
役者だけど、コンセプトをプレゼンしなきゃだし、台本も書くし、ドラマトゥルグも詰めて行くし、美術的なアイデアも出さなきゃだし。美術家ももちろん全く同じ仕事が求められます。
作品制作の面だけでなく、資金集め、助成金の申請、関係各所とのやりとり、可能性のある劇場、フェスへの売り込み・・・そして今回のように、全く違う畑の技術的なこともこなすことを、半ば強制的に求められています。
正直、今回私たちを大きく悩ませたのはこの技術的な側面でした。
初めて使うプロジェクター。それによってつきまとう音響ブースの設置、
配線の問題、DVDを使うのか、音響機材はどうするのがベストなのか、
ケーブルをこちらで用意する必要があるのか云々・・・
劇場によって仕様も、持っている機材も違うので、簡単な問題ではありません。
まだ、完璧な解決方法は見つかっていません。

だからこそ、と声を大にして言える。
だからこそやってておもしろい。
なんで演劇をやっているのかが、よくわかる。

作品をつくる、というこの仕事そのものという”機会”を
私たちは自分たちの手で作りました。
規模も小さいし、まだまだ駆け出しだし、そもそも作品の評価はお客様が決めるものなので、私には正直まだわかりません。
だけど、この”機会”を通して、今までやったことのないことにたくさん挑戦して、
絶望して、わずかな光を掴んでは、また失って。
少しずつ形づくってきた得体の知れないもの。
それが少なからず誰かの胸に届いたかもしれない瞬間を目の当たりにする体験。
今日もそんな出来事がありました。

助成金の提出資料の関係で、チェコではあまり行われない、上演後のお客様への
アンケートをお願いしています。
意外と素直に色んなことを書いてくれます。
その中で。
今日のナイブニー劇場での終演後、15分以上座席に座ったまま、
アンケートを書いてくれている女性がいました。優しそうなグレーの髪の女性。
あまりに長く座っているので、別の用事をこなしているのかと思って、
さっさと片付けを初めてしまったのですが、しばらくして、笑顔で、
アンケートを手渡してくれました。
表面を裏返すと、日本人の私にもわかるくらい達筆なチェコ語で、
びっしりと、本当に端から端まで、びっしりと、感想を書いてくれていました。
その場では、とにかくお礼を言うことしか出来なかったのだけど。
後でペトルとゆみさんに訳してもらってびっくりするほど、
美しい感想が書かれていました。

こんな美しい芝居をこの劇場に持って来てくれたことへのお礼。
それぞれのパートや起こった出来事への的確な評価。
対象年齢を少し上げた方が良いとのアドバイス。
挙げればきりがないけれども、どれも納得のいく、心ある感想でした。
そして、この芝居を作った私たちそれぞれの中に”金のさかな”が見えたこと。
そして、彼女が今日誕生日で、その良き日にこんな素敵な作品を見られたことへの感謝。

泣いた。
その時は人がいたから涙ぐむくらいだったけど、
今ひとりで思い出すとむせび泣いてしまうくらい(笑)、感動した。

とてもプリミティブな体験だと思う。
原始的で、規模が小さいからこそ体感する苦労と、
お客さまとの距離が近いからこそ体感する感動と。
もちろん距離が近いのは諸刃の剣。
だけど、もっと丁寧に、ひとりひとりのお客さんと向き合いたいと思って始めた挑戦は、
私個人にとって、なぜ演劇を続けているのか、
なぜわざわざこんな小さな作品に大きな労力を払っているのか。
その答えをちらちらと見せてくれます。

わからないことが多過ぎて、一人ではできないから、人を巻き込んで、心を合わせて、
一緒に竜巻に巻き込まれてちりぢりになったかと思えばそのかけらをまた集めて。
そしたら時々すごい真実を垣間見たり。
ぞっとするような真理に一緒になって震えたり。
だけど時々こうしていくら言葉を尽くしても足りないくらいの、暖かい気持ちを、
見ず知らずの人から突然渡されたり。
いつまた会えるかわからない大切な人に、また抱きしめてもらえたり。

だから何なのかなんていう”答え”は、きっといつまでたっても言葉にはできない程、
世界は、シンプルな答えが複雑に溶け合う万色の渦。

疲れてますね(笑)。
とにかく嬉しかったのです。
長文失礼しました。



明日からはよだかの稽古です。
まだまだ超えなきゃいけない山がいくつも待っている。
次は10月3日にミノル劇場で18時から、日本大使館主催 日本文化の秋関連行事
『Yodaka』の上演です。

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